Category: blog - 2012.02.26
ART FAIR TOKYO 2012での新作

みなさまがご存知の通り「3・11」関連のニュースは絶えること無く今日も続き、大震災の悲しみは深く我々の心の中に今でも残っています。私はこの経験を一生忘れないでしょう。
日本のアーティスト達は、これまでの姿勢を変えたり、今までの作品の構想をパラダイム・シフトさせたりして、大震災の問題を各々が捉えていると感じます。あの日からさまざまな態度で芸術家達のステートメントが全国で発表され続けています。
私のこれまでとこれからの長いアーティスト活動の視点からみると、2011年から12年にかけて手掛けた作品は特別な重みを持つ意味深い制作だったといつか将来には言えることでしょう。
思い起こすと、私は数年前にイタリア・ポンペイへ訪問したことがあります。ベズビオ(Vesuvio)の周辺を見ると、そこはどこか富士山の噴火を想起させるものでした。
ドイツで「チェルノブイリ」の災害(の影響と脅威)を経験したことがあります。「阪神・淡路大震災」の時も、神戸港へ出かけました。その切ない状況は今でも忘れられません。
そして去年の大震災後は、多くの外国の方々が日本を離れて行きましたが、私はあえて東京を離れずにこの現状と向き合うことにしました。2011年4月24日には、渋谷でおよそ3000人と共に、第一回目の原発反対デモに参加しました。その後、岩手県の湾岸を訪ねる機会があったのですが、災害の後を目前にし、さらに胸を痛めることになりました。
それからはどのような作品を作るのか、当時制作中であった絵を描き続けるべきなのかどうか、ほぼ毎日真剣に考えました。
「3・11」との関係、日本の現代に於いて活動する美術家として、どういう個人的な認識、ビジョンを見せれば良いのか、何を期待されるか、(或は期待もされないのか)それが私には非常に大きな課題となりました。その根拠として、将来の日本社会へ態度を表明する必要を感じたのです。
私の作家活動は潜在意識的に、さまざまな異なる世界でのモダニズムの交差する折衷主義に近いものがあります。そして具体的にはそれまでに参加して来た、いくつもの大きな国際アートフェア(Art Basel Miami、Armory Show New York、Frieze London、FIAC Paris、Art Cologneなど)とその後の各国ギャラリーでの展示や活動とそのレビュー、印刷物に於いて結果を出して来ました。
今度はこの1年の成果を「アートフェア東京2012」と言うステージを用いて、アトリエから直接世界へ発表していきます。
2011から12年の作品群について、三つのポイントを表明致します。:
1) 美的感覚と情緒の具体化
私の中で、未来派、ダダイズム、80年代以降の西洋の「反美学論」への肯定と同時に、インターネットなどでの自由な情報・映像交換、「アップル」にみられるクール・美的なデザインに関わるライフスタイル、それに日本社会で概念化された「可愛い」らしさ、これらを意識しない訳にはいきません。
一方、古くから地震、震災、津波などを題材にした芸術表現方法は、素晴らしい日本美術史(彫刻を含む)の中では形式的に現わされています。
また、日本の景観の特徴として、日本の家の庭は綺麗に整えられていて美意識を感じられますが、街全体を見ると、対照的なほどの無計画さに気づき、非美的な違和感を覚えます。
このような事を分析していると、恐ろしさの中に「自然の力の美しさ」を放つ津波の映像が、矛盾や対立を浮かび上がらせ、その齟齬を調和してみることが今回の重要な課題となりました。
2) キャンバスの歴史の共感覚
多様性を持つアートプラクティスの現状で、古風な表現様式の油絵を観賞するのは今もなお魅力的です。深い歴史と平面と言う限定した形式を持ちながら、その絵画ならではの感触には現代に於いても心を惹かれる可能性が高いものだと思っています。私は機微と想像性に富んだ色彩とポエトリーを創造出来る絵の具と筆、キャンバスという明快なこの手法を用いて「人間と環境」について思索します。
例えば、「湾岸の家」と「日本の海」の連作は、日本の居住空間、家屋、港町の未来の有り様を提案するものです。
3) 日本のアーティスト
私の絵画は「日本」の芸術作品として認められるのだろうか。私の所存では、グローバリズムの中のナショナル・アイデンティティの問題、又は、自分の国の「文化的特性」についての新たなる分析が必要であると思っています。それでも、日本の現実の寓意を用いた和洋折衷な絵からは、亜 真里男のアーティスト像、制作者の姿勢をご確認頂けると思います。
2011年3月から今日までの結果として、「ペインティングの意味」と「生きる意味」の重要な相互関係・共時性を実感できた一年となりました。
皆様と共に、作品を観ながら、鑑賞者も建設的になれる場で、それぞれの創造性をつなぎ合い、語り合い、思考の種を蒔き、文化の交流関係を実現出来れば嬉しく思います。
東京、2012年3月
亜 真里男
アートフェア東京, 2012年3月30日 – 4月1日, 青山|目黒 Booth F16
(写真:島田雅彦ご夫妻)